妊娠中のアルコールやカフェインは控えた方がいいというのは、皆さんも知るところだと思います。特にアルコールは、以前は「少量なら大丈夫」と言われていましたが、現在は妊娠中のどの時期でも、胎児に低体重・顔面を中心とする形態異常や脳障害を引き起こす可能性(*1)があり、妊娠期間中の飲酒は禁止しています。
カフェインについては、妊娠中に過剰摂取すると、流産や胎児の発育遅延をきたすことも報告されていますが、アルコールと違って、緑茶、ほうじ茶、ウーロン茶、紅茶など、 麦茶以外のほとんどのお茶製品に含まれていて、全面的に禁止することは現実的には難しいと思います。そのためコーヒーなら、カップで1日1杯程度を目安にするように伝えています。ただ最近は、カフェインよりもココアや、チョコレートなどに含まれているポリフェノールが問題視 (*2)されています。
ポリフェノールは植物が作り出す抗酸化物質で、細胞膜上の活性酸素を除去し、動脈硬化やコレステロール血症など生活習慣病や発がん、老化の予防に役立つと最近の健康ブームで有名になりましたが、これも妊娠中に限っては、摂りすぎに注意しないといけません。実は、臨月にポリフェノールを過剰摂取すると、胎児期にのみ存在する動脈管という大事な血管が閉鎖して、心不全を起こすことがあります。
当院でも「ノンカフェインで、美容と健康にいい」と、毎日、ポリフェノールを多く含むルイボスティーを飲んでいた妊婦さんが、臨月に突然、胎児の心不全をきたした症例を2例経験しています。
ポリフェノールはコーヒー、チョコレート、ココア、緑茶、抹茶、 ブルーベリーなど、多くの食品に含まれていますので、注意が必要です。但し、ポリフェノールの胎児への影響は摂取中止後、2週間で自然に収まりますので、知らずに摂取していた人も過度に心配する必要はありません。
その他の留意事項として、妊娠前から葉酸を含むマルチビタミンの摂取を勧めていますが、ビタミンAは催奇形性(*3)があるため、とくに妊娠初期は摂りすぎてはいけません。その点では、妊婦用のサプリメントは安全性に配慮されているので、安心です。
(*1)胎児性アルコール症候群
妊娠中のアルコールは脳、発育不全、妊婦のうつ、ADHD(注意欠如多動症)や自閉症状の悪化など様々な疾患と関連することが報告されています。スペクトラムなど神経発達障害にも関連していると言われ、胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)と表現されることもあります。飲酒は摂取量や摂取時期に関係なく、胎児に不可逆的な悪影響を及ぼしますので、ご注意ください。
(*2)ポリフェノール
ポリフェノールはトマトのリコピン、大豆イソフラボンや緑茶カテキンなどのフラボノイド、ココアのカカオポリフェノールなど、約5000種類あると言われています。すべてを排除することはできませんが、特定のハーブティーや紅茶など、ポリフェノールが多く含まれる嗜好品の摂りすぎには注意する必要があります。
(*3)ビタミンA
動物性食品に含まれるレチノールと植物性食品に含まれるβカロテンがあります。人参、かぼちゃなど植物性由来のβカロテンは問題ありませんが、動物性由来のレチノールは妊娠初期(妊娠3か月頃まで)に過剰摂取すると胎児に奇形が起きやすくなると言われています。一般的なサプリメントにはこのレチノールが配合されていることも多く注意が必要ですが、妊婦用のサプリメントは配慮されていますので、安心して大丈夫です。厚生労働省の基準は、妊婦のビタミンA(レチノール)の必要量は2000IU(600㎍)~上限5000IU(1500㎍)です。鉄分が多いからとレバーをたくさん摂取するお母さんもいますが、豚レバー13000㎍、鶏レバー14000㎍含まれていますので、摂りすぎは禁物です。
(参考) カフェインとポリフェノールの含有量
カフェインは100mlあたり、コーヒー60mg、紅茶30mg、煎茶・ウーロン茶20mg、麦茶0mg 含まれています。
一方、ポリフェノールは100mlあたり、コーヒー200mg、緑茶115 mg、紅茶96mg、 トマト・野菜ジュース69mg、ごぼう45mg、ウーロン茶39mg、麦茶9mg 含まれています。